第七十二段
原文
賤(いやし)げなるもの。居たるあたりに調度の多き。硯に筆の多き。持仏堂に仏の多き。前栽(せんざい)に石・草木の多き。家の内に子孫(こうまご)の多き。人にあひて詞の多き。願文に作善多く書き載せたる。
多くて見苦しからぬは、文車(ふぐるま)の文、塵塚の塵。
現代語訳(訳:きよしち - 2026-08-12)
品がなく見えるもの。座っている周りに道具類が多いこと。硯に対して筆が何本もあること。持仏堂(自宅の仏間)に仏像がたくさんあること。前栽(せんざい。庭先の植え込み)に石や草木が多すぎること。家の中に子や孫が大勢いること。人と会ったときに、言葉数が多いこと。願文(神仏への祈願文)に、自分の行った善行をあれこれ書き並べていること。
多くあっても見苦しくないものは、文車(ふぐるま。書物を運ぶ車)に積まれた書物と、塵塚(ごみ捨て場)に積もった塵である。