第六十四段
原文
「車の五緒(いつつを)は、必ず人によらず、ほどにつけて、きはむる官(つかさ)・位に至りぬれば、乗るものなり」とぞ、ある人、仰せられし。
現代語訳(訳:きよしち - 2026-07-28)
「車の五緒(いつつお、牛車の簾に垂らす五筋の組紐のことで、位の高い者が用いる格式高い牛車を表す)は、必ずしも家柄によるものではなく、その人の身の程に応じて、至り得る最高の官職・位に達したならば、乗るものである」と、ある人がおっしゃった。
コメント
五緒という牛車の紐に関する兼好法師の覚え書きの段ですね。この車の五緒という格式が、家柄ではなくその人自身が到達した官職・位によって許されるものだと述べています。
出自や家柄によってあらかじめ定まった特権ではなく、位そのものに付随する基準である、という点は、身分社会の中にあっても一種の公平さを感じさせます。ただし当時の「官・位」への到達自体は蔭位の制度など家柄の影響を強く受けていたため、現代的な実力主義とそのまま重ねるのは少し踏み込みすぎかもしれません。
それでも、属人的な特権ではなく制度・規則に基づく線引きに、兼好法師が関心を持って書き留めた点には興味を惹かれます。