第三段

原文

よろづにいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵(さかづき)の当(そこ)なき心地ぞすべき。

露霜にしほたれて、所定めずまどひ歩(あり)き、親のいさめ、世のそしりをつつむに、心のいとまなく、あふさきるさに思ひ乱れ、さるは独寝(ひとりね)がちに、まどろむ夜なきこそをかしけれ。

さりとて、ひたすらたはれたる方(かた)にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。

現代語訳(訳:きよしち - 2026-02-09

様々なことに優れていても、恋愛に興味がなく、男女の想いの機微が分からないような男は、とても物足りなく、底のない杯(さかずき)のような、重要なものがぽっかり抜けているような感じがする。

夜露や霜に濡れながら、行く先も定めず歩き回り、親の言葉や世間のうわさを気にして心が休まる暇もなく、あれこれと恋愛について思い悩み、結局は女性と一緒ではなく独りで床につくことが多く、悶々と眠れぬ夜を過ごすような男、またそのような状況こそ、趣がある。

とはいえ、ただひたすら女性を追いかけ下に見られるのではなく、女性からリスペクトを受け、軽々しく扱われないような男こそ、理想的なあり方である。

コメント

男性に向けた、女性との関わり方について書かれた段だと思います。総評すれば「概ねしっかりと何事もそつなくこなし、恋愛の機微にも理解があることが望ましいが、女性ばかりにうつつを抜かしていてもだめだよ」というようなことでしょうか。色々と声を掛けてみるが女性から相手にされないこともある、そういうときの男の寂しさ、辛さにも「をかしさ」を感じられるようであれ、という主張には共感します。男にはそういう時期、経験も必要ということなのかもしれません。