第百段

原文

久我相国は、殿上にて水を召しけるに、主殿司(とのもづかさ)、土器(かはらけ)を奉りければ、「まがりを参らせよ」とて、まがりしてぞ召しける。

現代語訳(訳:きよしち - 2026-09-10

久我相国(こがのしょうこく、村上源氏久我家出身で太政大臣を務めた人物とされる)が、殿上(でんじょう、清涼殿にある殿上人の間)で水を所望されたところ、主殿司(とのもづかさ、宮中の雑事を司る役人)が、土器(かはらけ、素焼きの盃)を差し上げたので、「まがり(曲がった柄杓)を持って参れ」と言って、まがりを使ってお飲みになった。

コメント

上流階級の人間が、土器ではなく「まがり」を使って水を飲んだことを書き記した段です。この段は単にその事象を記録しただけの段のようですね。

兼好法師はもともと朝廷に仕えた経験があり、こうした宮中の作法や道具選びの機微そのものに強い関心を持っていました。この段は教訓を語るためというより、「こういう振る舞いがあった」という事実そのものを書き留めておきたかったのかもしれません。第九十五段などでも同じようなメモが見られますね。